東証 : インサイダー取引に関する取引相談FAQ集
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2010/08/10 更新
東証COMLECの取引相談窓口によく寄せられるインサイダー取引に関する質問及びそれに対する回答をとりまとめました。(最終更新日:平成22年8月10日)
なお、掲載している質問に対する回答は、インサイダー取引規制に関する考え方のポイントを一般論として示したものであり、実際の事案における事実関係によっては異なる結論となる場合があり得ることにご留意ください。また、ある取引がインサイダー取引規制の対象とならない場合であっても、他の法令や、取引におけるモラルの観点から問題がないことを意味するわけではないことにもご留意ください。
目次
1. 規制対象となる者
2. 規制対象となる取引
3. 規制対象となる有価証券
4. 重要事実
5. 公表
6. 罰則等
7. 社内ルール
1. 規制対象となる者
1. 上場会社の役員(従業員)による売買
私は、上場会社の役員(従業員)ですが、当該上場会社の株式を売買するとインサイダー取引規制違反となるでしょうか。
回答
上場会社の役員や従業員は会社関係者に該当しますが、未公表の重要事実を知らなければインサイダー取引の成立要件を欠いていますのでインサイダー取引規制違反とはなりません。
2. 親族に上場会社の役員(従業員)がいる場合
私の親族が上場会社の役員(従業員)を務めていますが、私が当該上場会社の株式を売買するとインサイダー取引規制違反となるでしょうか。
回答
上場会社の役員や従業員は会社関係者に該当するため、親族の方は会社関係者に該当します。会社関係者が業務上で重要事実を知った場合、その会社関係者から未公表の重要事実の伝達を受けた者は第一次情報受領者に該当します。もっとも、親族に上場会社の役員や従業員がいるだけであって、その親族から未公表の重要事実の伝達を受けているのでなければ、インサイダー取引の成立要件を欠いていますのでインサイダー取引規制違反とはなりません。
3. 上場会社の役員退任後の売買の場合
私は、4か月前まで上場会社の役員を務めていましたが、このたび、資金が必要となったため、在任時から保有していた当該上場会社の株式を売却したいと考えています。退任後ですので、上場会社の株式の売買をしてもインサイダー取引規制に違反しないと考えてよいですか。
回答
会社関係者でなくなった後1年以内の者も、会社関係者と同様にインサイダー取引規制の対象とされています。そのため、在任中に職務に関して知った未公表の重要事実が売買する時点で未だ公表されていない場合は、インサイダー取引規制違反となり得ます。また、退任後に新たに未公表の重要事実を知った場合であっても、会社関係者から伝達を受けた場合には、情報受領者としてインサイダー取引規制に違反することとなり得ます。なお、いずれのケースも、「資金が必要となった」などといった、売買の動機はインサイダー取引の成否には関係ありませんので御注意ください。
4. 「役員」の意義
インサイダー取引規制に関連して、「役員」の売買報告書の提出義務(金融商品取引法第163条)や、「役員」に対する短期売買利益の返還請求(金融商品取引法第164条)が定められていますが、どのような人が「役員」に該当しますか。
回答
金融商品取引法第21条第1項第1号で「役員」は、「取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者をいう。」と定義されていますが、この後に「第163条から第167条までを除き、以下同じ。」とありますので、インサイダー取引規制における「役員」の定義については解釈に委ねられていることになります。
しかし、一般的にはインサイダー取引規制における「役員」の定義も、上記の金融商品取引法第21条第1項第1号における定義と同じと考えられており、執行役員、相談役、顧問などは「役員」には含まれません。もっとも、執行役員、相談役、顧問などであっても、「その他の従業者」に該当するものとして、インサイダー取引規制の対象となると考えられます。
5. 「子会社」の範囲
インサイダー取引規制においては、上場会社の子会社の役職員も「会社関係者」に該当し、また、上場会社の子会社に関する一定の事項も当該上場会社の重要事実に該当すると聞きました。どこまでの範囲が「子会社」に含まれますか。
回答
上場会社等の属する企業集団に属する会社として、直近の有価証券報告書などに記載されたものをいいます。
6. 立ち聞き、飲み会での情報受領
私は上場会社の従業員ですが、社内で重要事実を立ち聞きした場合やアフターファイブの飲み会の席で未公表の重要事実の話を聞いてしまった場合に自社の株式などの売買をしたらインサイダー取引規制に違反することになりますか。
回答
たまたま社内で知った場合であっても、その状況によっては重要事実を「職務に関して」知った会社関係者としてのインサイダー取引と判断されるおそれがありますし、飲み会の席上で知った場合であっても、情報受領者として規制の対象とされることも考えられますので、御注意ください。
2. 規制対象となる取引
7. 利益が少額の場合、損失が出た場合
上場会社の未公表の重要事実を知って当該上場会社の株式を買い付け、公表後に売却したものの、数万円程度の少額の利益しか出ていない場合や、損失が出てしまった場合でも、インサイダー取引規制違反となるでしょうか。
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回答
インサイダー取引の成否には取引による利益の額・損失発生の別は関係ありませんので、会社関係者等が上場会社等の未公表の重要事実を職務に関して知った場合などにおいて、公表前に当該上場会社等の株式を売買した場合は、適用除外に該当しない限り、インサイダー取引規制違反となります。実際の事例でも、課徴金額が4万円と少額であっても課徴金納付命令が出された事例も存在します。
8. 1株(1単元)など少量の売買の場合
上場会社の未公表の重要事実を知っていますが、例えば1株(1単元)だけといった少量の売買であれば、インサイダー取引規制違反として摘発されることはありませんか。
回答
インサイダー取引の成否には取引数量は関係ありませんので、1株(1単元)であっても会社関係者等が上場会社等の未公表の重要事実を職務に関して知った場合などにおいて、公表前に当該上場会社の株式を売買した場合は、適用除外に該当しない限りインサイダー取引規制違反となります。実際の事例でも、買い付けた株式が1株と少量であっても課徴金納付命令が出された事例も存在します。
9. 利益確定売りをしていない場合
上場会社の未公表の重要事実を知ったうえで、当該上場会社の株式を買い付けましたが、重要事実の公表後も売却せず、保有を継続しています。当該買付けはインサイダー取引規制違反となりますか。
回答
他の要件を満たす限り、未公表の重要事実を知って最初に買い付けた時点でインサイダー取引規制違反となります。そのため、その後買い付けた株式を売却しても、あるいは保有を継続していても、インサイダー取引違反でなくなることはありません。
10. 売り要因の重要事実を知っての買付け、買い要因の重要事実を知っての売付けの場合
売り(買い)要因となる上場会社の未公表の重要事実を知りながら、株式を買い付け(売り付け)ました。当該買付け(売付け)はインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
重要事実が売り要因であるか買い要因であるかということと、実際に売り買いのいずれを行ったかということは、インサイダー取引の成否には関係ありませんので、売り(買い)要因の未公表の重要事実を知りながら株式を買い付けた(売り付けた)場合でもインサイダー取引規制違反となり得ます。いずれにしても未公表の重要事実を知った場合、これが公表されるまでの間は適用除外に該当するのでない限り、買付け、売付けのいずれも控えてください。
11. 決算発表の直前・直後の売買
上場会社が決算発表を行う直前や直後に、当該上場会社の役員や従業員が当該上場会社の株式を売買することは禁止されていますか。
回答
上場会社の役員や従業員といった会社関係者ではあっても、法令上は、決算発表の直前・直後に自社の株式などの売買を行ってはならないとのルールはないため、当該上場会社の未公表の重要事実を知らなければ当該上場会社の株式の売買は禁止されておりません。
ただし、インサイダー取引の未然防止のため、上場会社によっては、社内規程により決算発表の直前・直後の当該上場会社の株式の売買を禁止しているところもありますので、社内規程の内容には十分御配慮をいただければと思います。
12. 役員(従業員)持株会
私は上場会社の役員(従業員)で、未公表の重要事実を知っています。役員(従業員)持株会で自社の株式を毎月買い付ける場合や、持株会から株式を引き出して売却する場合はインサイダー取引になりますか。
回答
一定の計画に従い毎月行う定時定額の買付け(各役員(従業員)の1回あたりの拠出額が100万円未満)は、インサイダー取引規制の適用除外にあたりますので、未公表の重要事実を知っていても買付けは可能です。一方で、買い付けた株式を売却することはインサイダー取引規制の適用除外には該当せず、インサイダー取引違反となり得るため、通常の株式の売買等と同様に、未公表の重要事実を知っているかどうかの確認が必要です。
13. 株式累積投資制度(「るいとう」)
いわゆる「るいとう」による買付けはインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
Q8の役員(従業員)持株会の定時定額の買付けと同様に、いわゆる「るいとう」による買付けも、インサイダー取引規制の適用除外とされています。もっとも、買い付けた株式を売却する場合はインサイダー取引規制の対象です。
14. 贈与・相続
贈与による上場会社の株式の譲渡又は譲受けはインサイダー取引規制の対象となりますか。また、相続による上場会社の株式の取得はインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
インサイダー取引規制の対象となる行為は「売買等」であり、これは売買その他有償の譲渡若しくは譲受けなどを意味します。そのため、無償で行われる贈与による株式の譲渡や譲受けはインサイダー取引規制の対象とはなりません。また、同様の理由から、相続に
よる株式の取得もインサイダー取引規制の対象とはなりません。
15. ストックオプションの行使
私は、上場会社に勤務しており、会社からストックオプションの付与を受けて保有していますが、これを行使して株式を取得することはインサイダー取引規制の対象となりますか。また、ストックオプションを行使して取得した株式を売却する場合はどうですか。
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回答
ストックオプションとして付与されている新株予約権を行使して株式を取得することは、インサイダー取引規制の適用除外にあたりますので、未公表の重要事実を知りながらでも可能です。
これに対して、ストックオプションを行使して取得した株式を売却する場合は適用除外にあたりません。したがって、特に株価の状況を見て権利行使・株式取得・売却を行う場合でも、未公表の重要事実を知っていると、取得した株式を売却できないケースがありますので御注意ください。
16. 市場外の相対取引、ToSTNeTを通じた取引
市場外での相対取引やToSTNeTを通じて行われる上場会社の株式の売買はインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
市場外での相対取引やToSTNeTを通じて行われる上場会社の株式の売買は、いずれもインサイダー取引規制の対象となり得ますが、市場外での相対取引のうち、売買等の当事者双方が同一の未公表の重要事実を知って売買等を行う場合は、規制の適用除外に該当となる場合もあります。
3. 規制対象となる有価証券
17. 単元未満株式
私は上場会社の単元未満株式を保有していますが、このような単元未満株式の売却や買い増しはインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
単元未満株式の売買についてインサイダー取引規制の適用除外とする規定がないので、単元株と同様にインサイダー取引規制の対象であると考えられます。
なお、これに対して、上場会社等が単元未満株式の買取請求に応じて買取りを行う場合(会社法第192条・第193条)、単元未満株式の売渡請求に応じて売渡しをする場合(会社法第194条)は、適用除外とされています。
18. ETF・REIT・投資信託
ETF、REIT、投資信託の売買等は、それぞれインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
ETF、REIT、投資信託は、原則として、インサイダー取引規制の対象である「特定有価証券等」ではありません。
もっとも、例えば投資先の物件について災害に起因して損害が生じたなどの、投資判断に影響を及ぼし得るような未公表の内部情報を知りながらREITの売買を行う場合などは、インサイダー取引と同様の弊害が生じる可能性があるため、不公正取引を一般的に禁止する金融商品取引法第157条に違反すると解されるおそれが考えられます。
(また、ETF、REIT、投資信託であっても、例えばいわゆる自社株投信のような、信託財産を特定の上場会社等の特定有価証券のみに対する投資として運用する旨を信託約款に定めた投資信託の受益証券や、同様の旨を規約に定めた投資法人の発行する投資証券などは、「特定有価証券等」に該当するものとして、インサイダー取引規制の対象となることがあります。)
19. 未上場会社の発行する株式
未上場会社の発行する株式や、グリーンシート銘柄、フェニックス銘柄はインサイダー取引規制の対象となりますか。
回答
インサイダー取引規制の対象は、発行している一定の有価証券が金融商品取引所に上場されている上場会社等が発行する有価証券に限られますので、株式を上場していない未上場会社の発行する株式は、原則として、インサイダー取引規制の対象ではありません。ただし、グリーンシート銘柄制度及びフェニックス銘柄制度は、未上場会社株式の売買制度ではありますが、これらの制度の対象とされているグリーンシート銘柄やフェニックス銘柄は、インサイダー取引規制の対象とされています。
グリーンシート銘柄制度
フェニックス銘柄制度
20. 「子会社連動株式」・「連動子会社」の意義
子会社の決定事実の軽微基準について調べていたら、「子会社連動株式」や「連動子会社」といった言葉がでてきましたが(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第52条第2項など)、これは何ですか。
回答
簡単に言えば、上場会社がA、B2種類の株を発行している場合、A株については自社の利益を剰余金の配当の原資としますが(通常の上場株)、B株についての剰余金の配当がある特定の子会社の剰余金の配当に基づき決定されるときの、B株を子会社連動株式(いわゆるトラッキング・ストック)、その特定の子会社を連動子会社と呼んでいます。
連動子会社、子会社連動株式については、それぞれ、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第49条第11号、同府令第52条第1項第12号に定義規定が置かれており、具体的な内容は金融商品取引法施行令第29条第8号に規定されています。
なお、現在は、上場会社が発行する株式に子会社連動株式は存在していません。
4. 重要事実
21. 四半期決算の数値
四半期決算において、決算短信で公表した予想値に比較して売上高等について大幅な差異が生じましたが、決算情報(金融商品取引法第166条第2項第3号)としてインサイダー取引規制上の重要事実となりますか。
回答
決算情報として定義されているのは、通期の売上高等の予想値、決算数値について差異が生じたことであると考えられていますが、四半期決算の数値についても注意が必要です。
四半期決算の数値とはいっても、例えば、その内容から通期の売上高等の予想値の修正がされるであろうことが読み取れる場合は、具体的な数字としては四半期決算の売上高等の予想値を知った場合であっても、実質的に通期の売上高等の予想値の修正を知ったものとみられ、決算情報を知ったものと判断される場合があります。
また、四半期決算の売上高等の予想値の修正自体が株価に影響を与える場合もあると考えられますが、このような場合において、バスケット条項に該当する可能性が排除されているわけではありません。
22. ストックオプションの付与
当社では、役員・従業員に対してストックオプションを付与することを考えていますが、ストックオプションの付与の決定はインサイダー取引規制上の重要事実となりますか。
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回答
役員・従業員などに対してストックオプションとして新株予約権を付与する場合は、募集の払込金額を無償(0円)又は著しく廉価とすることが一般的であると思われます。
この場合、募集の払込金額の総額が1億円未満であれば、重要事実には該当しません。
23. 代表取締役又は代表執行役の異動、取締役の異動
上場会社において、代表取締役又は代表執行役の異動や、取締役の異動が決定されたことは、インサイダー取引規制上の重要事実となりますか。
回答
代表取締役又は代表執行役の異動の決定は、適時開示事項ではあっても(有価証券上場規程第402条第1号aa)、一般的には、インサイダー取引規制上の重要事実には該当しないと考えられます。
また、代表権のない取締役や執行役の異動の決定も、一般的にはインサイダー取引規制上の重要事実には該当しないと考えられます。
ただし、例えば、代表取締役が当該上場会社に対して強い影響力を持つ創業者である場合などは、その辞任が株価に影響することも考えられますので、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものとしてバスケット条項に該当する可能性もあると考えられます。
24. 株主優待の創設、変更、廃止
上場会社による株主優待の創設、変更、廃止の決定はインサイダー取引規制上の重要事実となりますか。
回答
株主優待の創設や変更の決定については、重要事実のうち、剰余金の配当の決定に該当するか否かが問題となり得ますが、一般的には株主優待の創設、変更、廃止の決定が剰余金の配当に該当することはありません。ただし、ほとんどの株主が株主優待を期待して株式を保有している場合などであれば、その廃止の決定はバスケット条項に該当する可能性があると思われます。
5. 公表
25. 重要事実の公表直後の売買
上場会社が重要事実を公表した直後に、当該上場会社自身が自己株式取得を行ったり、会社関係者が売買等を行ったりすると、インサイダー取引規制に違反することになりますか。
回答
重要事実が公表された後であれば、当該上場会社の株式の売買などがインサイダー取引規制に違反することはありません。
ただし、公表直後においては、実質的に見て、未公表の時点から重要事実を知っていた会社関係者と一般投資家との間に情報格差が存在するため、当該会社関係者、特に取締役等が積極的に自社の株式の売買を行うことは、一般投資者との平等性において著しく衡平を欠くこととなるおそれがあります。
このため、東証からは、上場会社に対し、上場会社の会社関係者が重要事実の公表直後に当該上場会社の株式の売買を行う際には、会社情報を広範な投資者に公平、迅速に伝達するという適時開示情報閲覧サービスの本来の制度趣旨をよく御理解いただき、十分な配慮をいただきたい旨の通知を上場会社宛てに通知させていただいております(平成16年1月16日(東証上サ第19号)「証券取引法施行令第30条の改正に伴う積極的なIR活動の充実等の要請について」)。
26. スクープ記事・憶測記事
ある上場会社の重要事実に関する情報が、スクープ記事や憶測記事によって一般に知られるようになった場合、当該重要事実はインサイダー取引規制との関係で公表されたものと考えてよいですか。また、これらの記事によって当該重要事実を知り、当該上場会社の株式の売買をした場合にはインサイダー取引規制に違反することとなりますか。
回答
重要事実の「公表」は上場会社が法令上に定められた方法で行うものであり、新聞社などによるスクープ記事や憶測記事が掲載されて重要事実に該当するような情報が一般に知られるようになっても、法令上の「公表」には該当しないため、会社関係者等に対する規制は解除されません。
会社関係者等に該当しない一般の読者が規制対象となることはありませんが、会社関係者等は、上場会社からの公表があるまで当該上場会社の株式の売買が制約されることになります。
27. 大量保有報告書
大量保有報告書が提出されることによって、主要株主の異動(重要事実に該当します。)が発生したことや、買集め行為(公開買付け等事実に該当します。)が行われたことが一般に知られるようになった場合、これらの重要事実や公開買付け等事実は公表されたものと考えてよいですか。
回答
主要株主の異動については上場会社が、買集め行為については買集めを行う者が、その事実を法令に定められた方法によって「公表」する必要がありますが、大量保有報告書の提出は法令に定められた公表手段には含まれておりません。
このため、一般的には、前者については東証の適時開示情報閲覧サービスへの掲載、後者については公開買付公告などの法令に定められた方法により公表がなされたか否かを確認していただくことになります。
28. 上場会社等の決定事実の軽微基準(単体の数値か連結の数値か)
一定の重要事実については軽微基準が定められており、例えば、上場会社等による株式交換の決定に関しては、当該上場会社等が完全親会社となる場合であれば、「株式交換完全子会社・・・となる会社・・・の最近事業年度の末日における総資産の帳簿価額が会社の最近事業年度の末日における純資産額の100分の30に相当する額未満であり、かつ、最近事業年度の売上高が会社の最近事業年度の売上高の100分の10に相当する額未満である場合において、当該株式交換完全子会社となる会社との間で行う株式交換」は軽微基準に該当し、重要事実には該当しないとされていますが(金融商品取引法第166条第2項第1号チ、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第49条第5号イ)、この場合の純資産額や売上高は、単体の数値又は連結� ��数値のいずれを意味するのでしょうか。
回答
単体の数値を意味します。
子会社の決定事実に係る重要事実の軽微基準に関しては、法令上、「『当該上場会社等の属する企業集団の』資産の増加額」(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第52条第1号イ)のように、連結の数字を指すことが明示されています。
御質問の例の場合は、特に上記の文言のように「当該上場会社等の属する企業集団の」といった限定はされていないため、単体で判断していただくことになります。
6. 罰則等
29. インサイダー取引の罰則等
インサイダー取引規制に違反した場合、どのような罰則がありますか。
回答
5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれらの併科になります。また、法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には、その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます。
また、インサイダー取引規制違反によって得た財産は原則として没収又は追徴されます。例えば、インサイダー取引により200万円で買い付けた株式を売却することによって300万円を得た場合には、300万円が没収又は追徴の対象となります。
このほか、罰則ではありませんが、規制の実効性確保のため、行政上の措置として、インサイダー取引規制に違反して自己の計算で有価証券の売買等を行ったものに対して、金融庁から課徴金納付命令が出されます。これにより、違反行為によって得た経済的利益相当額を基準として定められた方法によって算出された金額を国庫に納めることになります。
30. インサイダー取引規制の時効等
インサイダー取引規制違反の時効はいつ成立しますか。
回答
公訴時効は、売買等(買付け等又は売付け等)が行われた日から5年を経過することによって完成します。また、課徴金納付命令に先立つ審判手続開始の決定の除斥期間についても同様です。
31. 課徴金と刑事罰の関係
インサイダー取引規制に違反した場合、一つの違反行為が課徴金と刑事罰の両方の対象とされることはありますか。
回答
法令上は、一つの違反行為を課徴金と刑事罰の両方の対象とすることも可能となっています。
ただし、刑事罰としてインサイダー取引により得た財産の没収又は追徴が行われている場合は、当該財産の価額に相当する金額を課徴金の額から控除するなどの調整がなされることになっています(金融商品取引法第185条の7第15項、第185条の8第1項)。
上記の各Q&Aにおける記述は、特に言及のない限り、会社関係者等のインサイダー取引規制(金融商品取引法第166条)を前提としており、公開買付者等のインサイダー取引規制(金融商品取引法第167条)に関する検討にあたっては、別途の考慮が必要となる場合があり得ることに御留意ください。また、上記の各Q&Aにおける結論は一般論であり、前提となる事実関係が異なれば、上記と異なる結論となる場合もあり得ることに御留意ください。
7. 社内ルール
32. インサイダー取引防止規程のひな形・事例
当社では、このたびインサイダー取引防止規程の改訂を行うことになりましたが、東証では、改訂の参考になるようなインサイダー取引防止規程のひな形などを提供していますか。
回答
東証COMLECではインサイダー取引防止規程のひな形は作成していませんが、各上場会社の社内規程の内容を御紹介する「内部者取引防止規程事例集」を発刊しています。
下記URLからお求めいただけますので、よろしくお願いいたします。
内部者取引防止規程事例集
33. 特定の時期における自社の株式の売買を禁止するとの社内ルールの是非
当社は上場会社ですが、社内ルールで、役員や従業員は、決算期の直前・直後や、決算発表の直前・直後に自社の株式などの売買を行ってはならないとのルールを設けたほうがいいですか。
回答
50%以上の上場会社で、社内規程等において、特定の時期における役職員等による当該上場会社の株式の売買を禁止し、又は自粛させるなどの対策が講じられており、その中でも「特定の時期」として、特に決算期末に焦点を当てる上場会社が多数を占めています(「第2回全国上場会社内部者取引管理アンケート調査報告書」問16、17)。
このような特定の時期における役職員による売買の規制は、法令上の要請ではなく、インサイダー取引の未然防止の観点から、各上場会社の社内ルールに基づいて行われているものです。もっとも、このような規制を設けることにより、役職員の資産形成の事由を一定の範囲で制限することにもなります。
そのため、このような社内ルールを設けることの是非については、各上場会社において、未然防止の実効性を確保しつつも、過剰規制に陥らないように配慮しつつ、判断されるようお願いいたします。
34. 社内ルールへの違反
当社は上場会社ですが、社内ルールで、決算期の直前・直後に自社の株式などの売買を行ってはならないとのルールが設けられています。このような売買をするとインサイダー取引規制に違反することになりますか。
回答
社内規程はインサイダー取引の未然防止の観点から設けられているものであり、法令上は、決算期の直前・直後に自社の株式などの売買を行ってはならないとのルールはないため、決算期の直前・直後に自社の株式などの売買を行ったこと自体が直ちにインサイダー取引規制に違反することになるわけではありません。したがって、このような時期に売買を行っても、貴社の未公表の重要事実を知らなければインサイダー取引規制に違反することはありません。
もっとも、法令に違反することがなくても、社内規程に違反すれば、一般的には就業規則違反として懲戒処分の対象となり得ることに御注意ください。
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