Nodat Lab::毒のはなし
私の息子がまだ小学校に上がる前のこと、息子が手にしているお菓子を見て私の母が眉をしかめていた。
「どうしたの?」
「森永のお菓子、大丈夫? 気持ち悪いなア・・・」
最初は母が何を言っているのか理解できなかったが、「森永ヒ素ミルク事件」のことを言っているのだと分かり、ビックリしたものだ。私にとっては非常に印象的な出来事だった。
事件当時、12歳、10歳、7歳の3人の子を育てていた母に� ��って「森永ヒ素ミルク事件」は大変に衝撃的な事件だったのだろう。事件から25年を経過してもまだ森永に対する不信感を拭えないでいたようだ。多分、私達兄弟は森永製品は全く与えられていなかったのだろう。
中毒の原因は、乳児用ミルクの製造過程で乳質安定剤として使用する第二リン酸ソーダが、この時には純度の低い「工業用試薬」を用いたため、不純物としてヒ素が混入していたとされている。
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この事件を契機に食品添加物の成分規格を収載した「添加物公定書」が作成されることになり、昭和35年に「第1版添加物公定書」が作られた。
この事件から43年が経過して、1998年夏、和歌山毒カレー事件(死亡者4名、被害者67名)が発生した。
毒カレー事件の原因物質はヒ素化合物の一つである猛毒の亜ヒ酸であった。
被告の林眞須美が死刑判決を受けて一応の決着を見たが、動機解明も不十分、物的証拠も乏しく、事件の全貌が解明されたとは言い難い。
ヒ素には有機ヒ素と無機ヒ素があるが、毒性が強いのは無機ヒ素である。その中でも特に毒性が強いものは三酸化二ヒ素(亜ヒ酸)である。
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さて、ヒ素は西洋世界では古代ギリシャ、ローマ時代から19世紀まで毒殺用の「毒の王様」として君臨してきた。有名な化粧水・トッファナ水の主成分も亜ヒ酸で、化粧以外の目的にもかなり利用されたようだ。その理由はヒ素は無味無臭無色であり、検出方法がなかったことから死亡原因が特定できなかったためである。ところが、19世紀(1836年)になってマーシュの方法という微量ヒ素検出法が開発されたことによって、「毒の王様」という評価が一転して、ヒ素は「愚者の毒」と呼ばれるようになった。なぜならヒ素はマーシュ法で簡単に検出できることに加えて、金属元素であるヒ素はいつまで経っても消失しないので、屍体はおろか毛髪 さえあれば死亡原因が特定されるようになったからである。
一方、日本では江戸末期までヒ素は一般には出回っておらず、毒殺にもほとんど利用されていない。我国では毒といえばトリカブト(附子)だった。ネズミ取りの「石見銀山」(主成分は亜ヒ酸)が出回るのは江戸も末期(19世紀の前半)になってからである。その後、「いわみ」といえば猛毒として有名になり、毒殺にも利用されるようになった。
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ヒ素による中毒症状は、経口の場合は30~60分で発症する。急性症状は消化管の刺激によって、吐き気、嘔吐、下痢、激しい腹痛などがみられる。慢性症状は剥離性の皮膚炎や過度の色素沈着、骨髄障害、末梢性神経炎、肝障害、腎障害などを生じ、死に至ることがある。ヒトに対して発がん性、催奇形性があるといわれている。
体に吸収されたヒ素は酵素タンパク質などのスルフヒドリル基(SH基)に結合して酵素を阻害し、細胞の酸化的リン酸化を阻害することによって各種の障害を惹起する。
解毒薬としてはBAL(ジメルカプロール)がある。BALは重金属中毒の解毒薬で、BALのSH基が酵素タンパク質に結合しているヒ素と結合することによっ� �酵素タンパク質からヒ素を引きはがす作用を持つ。
ヒ素は自然界に広く分布し、最近ではバングラデシュを始めとして世界各地で地下水のヒ素汚染による住民の慢性ヒ素中毒が問題になっている。
また、ヒジキや昆布などの海藻類、カキ、クルマエビなどの魚介類にかなりの量のヒ素が含まれていることは周知の事実であるが、これらに含まれるヒ素の多くは低毒性あるいは生体内で無毒化される有機ヒ素化合物であるとされていた。しかし、2004年に英国食品規格庁は英国民に「ひじきを食べない」ように勧告して話題を呼んだ。それによると、ひじきは他の海草類と異なり、有機ヒ素の他に無機ヒ素を多く含有しているので、健康にとって有害であるという。確かにひじきには他の海藻類よりも多くの無機ヒ素が含有されていることがその後確認されたが、わが国の普通の食生活では、WHOが1988年に定めた無機ヒ素のPTWI(暫定的耐容週間摂取量)の15μg/kg体重/週を超え ることはなさそうである。
ただ、ヒ素は胎盤を自由に通過出来るので、妊娠中の女性は少しひかえた方が良いのかもしれない。
一方、人体内にもごく微量のヒ素化合物が存在しており、ヒ素は生存に必要な微量必須元素であると考えられるようになった。だからといって、ヒ素が有毒であることに変わりはなく、我国の食生活で「ヒ素欠乏症」などは考えられないので、サプリメントや食事などでの「意識的なヒ素摂取」などはするべきではない。
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